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「無期懲役」や「終身刑」という言葉は耳にしたことがある方も多いでしょう。実際の差異については詳しく知らない人もいるかと思います。
「終身刑」を、「一生を刑務所で過ごす」と認識することが一般的ですが、「無期懲役」は、そういったイメージとは少し異なるものです。「無期懲役」においては、仮釈放の制度を通じて、受刑者が刑務所を出るチャンスが存在します。従って、絶対的に一生を獄中で過ごすとは限りません。
とはいえ、「無期懲役」が実際にどのように適用されるかを観察すると、実質的に「終身刑」として機能する場合も見受けられます。
「無期懲役」と「終身刑」の実態とその違いについて調べましたので徹底解説いたします!!
「無期懲役」と「終身刑」の違いについて
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「無期懲役」と「終身刑」の違いについて解説いたします。
無期懲役とは?
「無期懲役」とは、一定の期間を設けずに懲役を行う刑罰を指します。
それに比べ、特定の期間が定められて実施される懲役を「有期懲役」といいます。 たとえば、「懲役5年」と定められたケースでは、5年の刑期が過ぎればその刑罰は完了し、該当する受刑者は釈放されることになります。
「無期懲役」の状況では、該当者が亡くなるまでの期間、その刑罰が継続されると解釈されます。
しかしながら、日本における「無期懲役制度」の中には、仮釈放の制度が存在します。このため、「無期懲役」を受けている受刑者も、仮釈放が許されれば、再び社会での生活を始めることができるのです。
終身刑とは?
「終身刑」は、文字通り、受刑者が亡くなるまで続く刑罰を指します。この場合、「期間を特定しない」というわけではなく、明確に「生涯」という期間が指定されているのが終身刑の特徴です。「無期懲役」よりも「終身刑」の方が罪は重いです。
さらに、「終身刑」には「絶対的終身刑」という形態が存在し、これに該当する受刑者は仮釈放の適用がなく、生涯獄中で過ごすことになります。この点で、日本の無期懲役制度とは大きく異なる点があります。
一方、「終身刑」を導入している多くの国々では、「相対的終身刑」という、仮釈放の適用が考えられる形態も存在しています。相対的終身刑と日本の無期懲役は、どちらも表現の仕方や期間の設定方法が異なるものの、実際の意味や取り扱いとしては類似していると見なしても問題ないでしょう。
日本には終身刑はない!!
日本の法制度上、「終身刑」は現在取り入れられていない状態です。
死刑の廃止に関する議論とともに、「絶対的終身刑」を死刑の代わりの刑として考えるべきではないかという提案が日弁連から挙がっています。しかしながら、この点に関しては国会での実際の討論には至っておらず、「終身刑」の導入についての具体的な方針や時期は現在のところ未定です。
無期懲役の仮釈放とは?
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「無期懲役」の「仮釈放」について解説いたします。
仮釈放とは?
日本の無期懲役制度は、絶対的終身刑とは異なり、「仮釈放」という特徴を持っています。
「仮釈放」は、刑期終了前に一部の条件をクリアした受刑者が、一時的に外に出られるようにする制度を指します。「有期懲役」においては、「仮釈放期間中」に何らかのトラブルを起こさなければ、その後の刑期が取り消されます。
無期懲役受刑者も、特定の要件を満たせば「仮釈放」の対象となることができます。しかしながら、「無期懲役」は名前の通り終わりが定められていないため、もし問題を起こさなくとも、事実上「一時的に」外に出ているだけということになります。
仮釈放を受けるための3つの条件とは?
仮釈放を受けるための条件は以下の3点です。
① 刑の開始から10年が経過していること。
② 受刑者が真心からの反省を示していること。
③ 社会の一般的な意見が、その受刑者の仮釈放を容認できると見られること。
法の文言上、10年経過後に仮釈放ができるとされていますが、実際にはそれが容易に実現するわけではありません。
なぜ無期懲役が実質的に終身刑とみなされるのか?
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実は、「無期懲役」を受けている人が仮釈放されるケースは少なく、刑務所内での死が多く見受けられます。そのため、「無期懲役」は実質的に「終身刑」と見なされることがよくあります。
仮釈放になるまでに少なくとも30年はかかる
法務省の下で、地方更生保護委員会が仮釈放の評価・決定を担当しており、その基準は法務省によって設定されています。また、法務省は無期懲役を受けた囚人に対して、刑の開始から30年後に初めての評価を行う方針を持っています。
有期懲役の最長刑期は基本的に20年です(刑法第12条第1項)。しかし、特定の状況、例えば併合罪の場合、これが30年まで増加することが許されています(同法第14条第2項)。
有期懲役の囚人が最大で30年間収監されることを考慮し、それより厳しい無期懲役の囚人に対しては、仮釈放が考慮されるのは最低でも刑の執行開始から30年後となっています。
言い換えると、無期懲役の判決が下されてから最低30年間は、仮釈放の可能性はありません。例えば、20代で収監が始まった場合、仮釈放が考えられるのは少なくとも50代になるまでです。また、50代で収監された場合、仮釈放の考慮は80代まで待たなければなりません。
30年以上服役しても仮釈放が認められるケースは少ない
法務省のデータによれば、2021年に無期懲役刑の中から仮釈放が許された人数は9人に過ぎませんでした。同じ年の終わりには、無期懲役で服役している受刑者は1,725人おり、これを基にすると、1年間で仮釈放が認められるケースは、約0.5%となります。
新たに仮釈放を受けられる人々の平均的な収監期間は32年10ヶ月でしたが、それにもかかわらず、終身仮釈放の許可を得られずに命を落とす者も存在しています。2021年だけでも、無期懲役の受刑者29人が亡くなっています。
これらの事実から、無期懲役の判決を受けた受刑者の中で、獄中での死が仮釈放よりもはるかに高いことが示されています。これが、無期懲役が実質的な終身刑として捉えられる背景となっています。
参考:法務省|無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について
まとめ
「無期懲役」と「終身刑」の違いについて解説いたしました。
1.「無期懲役」と「終身刑」の違いについて
(1) 無期懲役とは?
①「無期懲役」とは、一定の期間を設けずに懲役を行う刑罰をいう。
(2) 終身刑とは?
① 「終身刑」とは、受刑者が亡くなるまで続く刑罰をいう。
(3) 日本には終身刑はない!!
① 日本の法制度上、「終身刑」は現在取り入れられていない。
2.無期懲役の仮釈放とは?
(1) 仮釈放とは?
①「仮釈放」とは、刑期終了前に一部の条件をクリアした受刑者が、一時的に外に出られるようにする制度をいう。
(2) 仮釈放を受けるための3つの条件とは?
① 刑の開始から10年が経過していること。
② 受刑者が真心からの反省を示していること。
③ 社会の一般的な意見が、その受刑者の仮釈放を容認できると見られること。
※条件を満たしても、仮釈放が容易に実現するわけではない。
3.なぜ無期懲役が実質的に終身刑とみなされるのか?
(1) 仮釈放になるまでに少なくとも30年はかかる
① 仮釈放が考慮されるのは最低でも刑の執行開始から30年後となっている。
(2) 30年以上服役しても仮釈放が認められるケースは少ない
① 法務省のデータによれば、2021年に無期懲役刑の中から仮釈放が許された人数は1,725人中9人しかいない。
② 仮釈放が認められるケースは、約0.5%しかない。
③ 無期懲役の判決を受けた受刑者は、獄中での死が仮釈放よりもはるかに高い。
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